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東京高等裁判所 昭和62年(行コ)21号 判決 1989年5月30日

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は、訴外浦安市に対し、金一三〇万円及びこれに対する昭和五五年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人は、浦安市の住民である。

2  控訴人は、昭和四四年九月八日、千葉県東葛飾郡浦安町の町長に就任し、昭和五六年四月一日、同町が市制を施行したことにより浦安市の市長に就任した。

3  サンライズクラブは、池内慧(以下「池内」という。)を代表者とする権利能力のない社団であるが、昭和五五年六月二日ころ、浦安町第二期埋立地高洲地先の一級河川である境川の水域に、その河口から上流にかけて、ヨット係船用鉄レール杭約一〇〇本(以下「本件鉄レール杭」という。)を打ち込んだ。

4  控訴人は、右3の事態に対し、浦安町の町長として、同年六月五日、三井不動産建設株式会社(以下「三井不動産建設」という。)との間で、本件鉄レール杭撤去工事の請負契約を締結し、同月六日午前九時から翌七日午前零時四〇分までの間、多数の浦安町職員を動員し、所轄消防署から数台の消防車の出動を得た上、三井不動産建設の従業員をして本件鉄レール杭を撤去させ、同年七月二一日、右撤去作業に従事した浦安町職員六名に対し、合計四万八二七四円の時間外勤務手当を支給し、同年一二月二六日、三井不動産建設に対し、請負代金一三〇万円を支払った。

5  本件鉄レール杭の撤去は、何ら法律上の根拠に基づかない違法な行為であるから、その撤去作業のためにした前記請負契約の締結及び浦安町職員に命じた時間外勤務は、いずれも違法であり、控訴人は、前記の時間外勤務手当及び請負代金として合計一三四万八二七四円を浦安町の公金から違法に支出させ、同額の損害を同町に与えたものである。

6  よって、被控訴人は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、浦安市に代位して、控訴人に対し、右一三四万八二七四円及び内金四万八二七四円に対する昭和五五年七月二一日から、内金一三〇万円に対する同年一二月二六日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を浦安市に支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否及び控訴人の主張

1  請求原因1ないし4の事実は認めるが、同5の主張は争う。

2  境川河川水面に対する浦安町の権限

(一) 境川は、河川法の適用を受ける一級河川であり、建設大臣の指定区間として、その管理権を千葉県知事が有し、現実の執行は、出先機関である千葉県葛南土木事務所長(以下「葛南土木」という。)を通じて行っている。

(二) 浦安漁港は、浦安町に所在し、昭和二七年六月二三日農林省告示第二七一号により漁港法の適用を受ける第二種漁港に指定され、その区域内の水域として、「大字猫実地先船溜防波堤南端を中心として半径六百五十メートルの円内の海面及び境川取入口中心部を中心として半径百五十メートルの円内の江戸川河川水面のうち千葉県地先分並びに境川河川水面」が指定されている。なお、浦安漁港の区域としては、その外に、陸域及び航路が指定された。したがって、境川河川水面は、その全域が浦安漁港の区域内の水域に含まれている。

ところで、漁港法二五条、昭和三一年一月二〇日千葉県告示第二〇号により、浦安漁港につき、その所在地の地方公共団体である浦安町が漁港管理者に指定され、以来、浦安町が浦安漁港の維持管理をする責めに任じてきたが、控訴人は、同町の町長として、右管理権を行使する地位にあった(ただし、浦安町は、同法二六条にいう漁港管理規程を定めていない。)。

(三) 右のとおり、境川河川水面は、千葉県知事(葛南土木)が管理する一級河川であると同時に、浦安町が管理する浦安漁港の区域内の水域であり、従来、両管理者が相互に協議してその管理の執行に当たってきたが、両管理者とも同水面の占用の許可を認めない方針をとってきた。もっとも、浦安町にとっては、千葉県は上級地方公共団体であり、また、昭和四七年七月三一日付け四七水港第五九八三号知事あて水産庁長官通達により、漁港の区域と河川法六条の河川区域との重複する区域における土地占用料については、河川管理者のみが徴収することとし、漁港管理者は二重に徴収しないこととしている趣旨などから、境川河川水面の管理は、表向きは、河川管理者が主として執行する形がとられてきた。

(四) また、浦安町は、境川及び周辺地域住民と最も密接な関係にある地方公共団体であり、地方自治法二条に規定されているとおり、当該地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持する行政事務処理の職責と権能を有している。

(五) したがって、浦安町は、漁業法二六条及び地方自治法二条に基づき、境川水域に打ち込まれた本件鉄レール杭の撤去を命ずる権限を有する。

3  本件鉄レール杭撤去の経緯

(一) 浦安町においては、近年、境川筋にヨット、モーターボートの不法係留や係留施設の不法設置が急増して目に余る状態となり、船舶の接触・破損事故が発生したり、浮遊物が滞留するなど、環境の悪化が顕著となって、浦安町民から、河川の管理につき積極的施策を要望されていた。そのため、浦安町は、地元関係者に警告を発したり、千葉県知事に対して強力な措置を要請するなどしてきたが、右のような事態は一向に改善されなかった。

(二) 浦安町は、昭和五五年六月四日午前一〇時四〇分ころ、浦安町民で漁業者である高津和夫から、境川河心に鉄レール杭が打ち込まれていて漁船の航行に危険があるとの通報を受けたので、午前一一時ころ、秋元繁管理課長ら三名の職員を現場に派遣して調査したところ、浦安町第二期埋立地高洲地先の川幅四三メートルの境川の河心(護岸から約二一・五メートルの地点)及び右岸側(護岸から約一・五メートルの地点)に、長さ一二メートル及び一〇メートルの鉄道レールが、約一五メートルの間隔で、千鳥掛に約一〇〇本、約七五〇メートルの範囲にわたって打ち込まれていて、船舶の航行可能な水路の範囲が左岸側だけとなっており、しかも、その左岸側は十分浚渫されていないために危険であり、特に夜間及び干潮時に航行する船舶にとっては、甚だ危険な状況であることが判明した。

浦安町は、右の状況からして、境川を航行する船舶が接触・衝突等の事故を起こし兼ねないと判断し、漁港の維持及び地域漁民の安全確保のため、直ちに本件鉄レール杭を撤去させるべきであるとの意向を固め、その打設者の捜索に当たる一方、右の意向を葛南土木に伝え、従前の境川の管理執行方式に従って葛南土木が本件鉄レール杭を直ちに撤去する措置を講ずるよう要請した。なお、浦安町の埋立工事を所管する千葉県企業庁の出先機関である葛南建設事務所も、本件鉄レール杭打設の事実を知り、その早急な撤去方を葛南土木に要請した。

(三) 葛南土木は、同月四日午後、本件鉄レール杭を打設したサンライズクラブの池内に対し、翌五日中にこれを撤去するよう指示したところ、池内は、右指示を承諾した。

(四) 浦安町は、同月五日午前、同町職員を現場に派遣して本件鉄レール杭撤去作業開始の有無を調査させたが、右撤去作業が実施される気配が全くなく、午前一〇時ころ帰庁した右職員が、その旨を控訴人に報告した。

葛南土木も、現場を視察した上、同日午前一一時三〇分ころ、浦安町役場を訪れ、控訴人とその善後策につき協議した。

控訴人を始め浦安町当局者は、葛南土木に対し、境川のヨット、モーターボートの不法係留等につき、従来、町が県知事の強力な措置を要請してきたのに、何ら抜本的な方策がとられないまま経過していることに不満の意を表明し、かつ、本件鉄レール杭の打設は千葉県及び浦安町の行政指導に対する挑戦であって、浦安町がこれを看過するのは、漁港の維持保全及び町民の生命財産を守る義務を甚だしく怠ることになるから、その打設者をして直ちに本件鉄レール杭を撤去させるべきであるとの意向を伝えた。また、右の協議中、葛南建設事務所から、サンライズクラブが境川上流に不法係留している多数のヨット、モーターボートを同月七日及び八日に一斉に移動して本件鉄レール杭に係留する手はずとなっているとの情報が入った(もし、このようなことが敢行されるならば、更に新たな不法状態が現出し、事後においては原状の回復が至難であって、前記のような本件鉄レール杭打設の状態を放置すると、船舶の航行の安全確保ができないばかりか、船舶の衝突等の事故を起こすおそれもあり、また、河川流水の流下の阻害による洪水、高潮等の災害の発生が危惧され、更に河川施設の損傷を招くなど、重大な事態が生じ、浦安町が漁港管理者、地元の地方公共団体として責任の追及を受けることも十分予測される。)ので、浦安町は、これを認めるならば極めて危険な状態が既成事実として定着し、手の施しようもなくなる旨を葛南土木に指摘し、もし千葉県当局が本件鉄レール杭を撤去する措置をとらないのであれば、浦安町独自の権限でこれを撤去するとの強硬な態度を示した。

葛南土木は、浦安町の右のような意向を受け、河川管理者及び漁港管理者双方の立場から、同日(六月五日)付けで池内に対し、同月六日中に本件鉄レール杭を撤去せよとの義務下命の公文書を発することを約した。

(五) 葛南土木は、同月五日午後、池内に対し、同月六日中の履行期限を定めた本件鉄レール杭撤去の履行命令を発し、その旨を記載した撤去命令書を交付したが、その際、葛南土木は、浦安町も同旨の履行命令を発している旨を口頭で同人に告知した。

浦安町は、同月五日午後三時三〇分ころ、葛南土木から右事実の連絡を受けたが、本件鉄レール杭による船舶航行の危険性が大であり、同月七日になれば本件鉄レール杭に多数のヨット、モーターボートが不法係留されることが確実であることからして、同月六日中にその撤去作業が完了しない場合には混乱が生ずることが必至で、行政代執行法による手続を経ていたのでは、その間に新たな不法状態が作出され、事後においては原状の回復が至難であると判断した。そこで、控訴人は、浦安町の町長として、急迫した不法な事態の発生を未然に防止するためには、本件鉄レール杭を速やかに強制撤去する以外に適当な手段はないと決断し、浦安町職員に命じて撤去作業請負業者を選定し、本件鉄レール杭撤去の準備に取り掛かった。

(六) 同月六日朝、浦安町職員らが現場に赴いたところ、池内には本件鉄レール杭の撤去作業を開始する気配がなく、右職員らの警告を無視して、「サンライズ田島号」外三隻のモーターボートを本件鉄レール杭に係留するなどの挙に出た。そこで、浦安町職員らは、右モーターボートを退去させた上、これ以上時間を費やすと不測の事態が発生することを懸念して、午前九時に本件鉄レール杭の撤去作業を開始した。

4  本件鉄レール杭の撤去は、浦安町がその権限に基づいて行った適法な行為である。

すなわち、浦安町は、浦安漁港の漁港管理者及び地方自治法二条の行政主体として、境川水域に打ち込まれた本件鉄レール杭の撤去を命ずる権限を有するところ、昭和五五年六月五日、その打設者であるサンライズクラブの池内に対し、葛南土木を使者として、同月六日中に本件鉄レール杭を撤去するよう口頭で下命した。もっとも、浦安町は、本件鉄レール杭の撤去につき、行政代執行法三条一項及び二項に規定する手続を経ていないが、本件の場合には、本件鉄レール杭の危険性が高度で、これを放置することが著しく公益に反すると認められ、かつ、その撤去のために右手続をとる暇がない緊急の必要があったので、このような非常事態に対処するため、撤去義務者であるサンライズクラブの池内に対し、文書による戒告及び代執行令書による通知をしなかったのであり、同条三項にいう緊急執行が許される場合に当たるから、その権限の行使は違法ではない。

5  本件鉄レール杭は、単体の鉄道レールを公共用物たる河川の水域に打ち込んだもので、それ自体独立の所有物ではないから、公共用物の管理者は、それが危険又は障害となる場合には、行政代執行法の手続を経なくとも、これを撤去し得ると解すべきである。したがって、本件鉄レール杭の撤去については、緊急の公益上の必要があり、浦安町が漁港管理者としてこれを撤去し、その撤去費用を町の一般財産から支出することは、何ら違法ではない。

6  仮に前記4及び5の主張が認められないとしても、控訴人は、浦安漁港の漁港管理者であり地方自治法二条の行政主体である浦安町の町長として、前記の本件鉄レール杭撤去の経緯のとおり、浦安町、同町の住民及び境川を利用する関係者の法益を守るため、やむを得ない緊急措置として右撤去行為に及んだものであるから、正当防衛、緊急避難に当たるというべきであり、その違法性が阻却される。したがって、本件公金の支出は、正当な行為に基づくものであるから、違法な支出ではない。

7  仮に本件公金の支出によって浦安町に損害が生じたことになるとしても、千葉県は、昭和五九年五月二六日、浦安市に対し、昭和五八年一二月一日付け水門等管理委託追加契約に基づく委託費という名目で、一三七万九〇〇〇円を支払い、実質的に本件鉄レール杭の撤去作業に要した費用を補填した。

三  控訴人の主張に対する認否及び被控訴人の反論

1(一)  控訴人の主張2(一)の事実は認める。

(二)  同2(二)のうち、境川河川水面の全域が浦安漁港の区域内の水域に含まれていることは争い、その余の事実は認める。浦安漁港の区域内の水域として指定された境川河川水面は、境川取入口中心部を中心として半径一五〇メートルの円内に限られ、本件鉄レール杭が打ち込まれた水域は、その範囲外である。しかも、仮に本件鉄レール杭の打設場所が浦安漁港の区域内の水域であるとしても、浦安町は、その撤去命令権を有しない。

(三)  同2(三)のうち、境川河川水面中、浦安漁港の区域に指定された水域につき、千葉県知事の河川管理権と浦安町の漁港管理権が重複することは認めるが、その余の事実は争う。従来、境川河川水面は、千葉県知事が管理してきたものである。

(四)  同2(四)の主張は認め、(五)の主張は争う。

2(一)  控訴人の主張3(一)の事実は知らない。

(二)  同3(二)のうち、境川水域に本件鉄レール杭が打ち込まれたことは認めるが、その余の事実は争う。サンライズクラブは、本件鉄レール杭を打設するにつき、あらかじめ葛南土木及び葛南建設事務所と交渉して、その確認を得ており、控訴人主張のような危険性はなかった。

(三)  同3(三)のうち、葛南土木が六月四日にサンライズクラブに対して本件鉄レール杭を撤去するよう指示したことがあり、サンライズクラブが右指示を承諾したことは認めるが、その余の事実は争う。葛南土木の指示は、可及的速やかに本件鉄レール杭を撤去するようにという内容であり、サンライズクラブが同月五日中にこれを撤去することを承諾したことはない。

(四)  同3(四)のうち、サンライズクラブが六月五日午前中に本件鉄レール杭の撤去作業を開始しなかったことは認めるが、その余の事実は知らない。

(五)  同3(五)のうち、葛南土木が六月五日夕方にサンライズクラブに対して同月六日中に本件鉄レール杭を撤去するように記載した「不法設置工作物の撤去について」と題する文書を交付したことは認めるが、その余の事実は争う。葛南土木は、サンライズクラブに対し、単なる行政指導をしたにすぎないのであり、サンライズクラブが葛南土木の職員に対し、「六月六日中の撤去は難しいから、六月七日中に撤去する。」と申し入れたところ、右職員は、これを了解した。なお、葛南土木から浦安町の履行命令の告知はなかった。

(六)  同2(六)のうち、浦安町職員らが六月六日午前九時に本件鉄レール杭の撤去作業を開始したことは認めるが、その余の事実は知らない。

3  控訴人の主張4のうち、浦安町が浦安漁港の漁港管理者であり、地方自治法二条の行政主体であること、浦安町が本件鉄レール杭の撤去につき行政代執行法三条一項及び二項に規定する手続を経ていないことは認めるが、その余の事実及び主張は争う。浦安町は、そもそも本件鉄レール杭の撤去命令権を有しないが、この点はさておき、控訴人の主張によれば、本件鉄レール杭の打設が判明したのは、六月四日午前中であるというのであるから、その撤去作業を開始するまでに約二日間の余裕があったのであり、その間、同町が行政代執行法三条一項及び二項に規定する手続をとることは可能であったはずである。また、サンライズクラブは、葛南土木から、本件鉄レール杭を六月六日中に撤去するよう指示され、更に同月七日中に撤去すればよいとの了解を得ていたのであるから、その履行期限到来前に、浦安町が本件鉄レール杭を撤去する理由はなかった。

4  控訴人の主張5は争う。

5  控訴人の主張6は争う。行政代執行法三条三項は、いわゆる緊急代執行の制度を定めているが、同項は、「非常の場合又は危険切迫の場合」においても、同条一項及び二項に規定する手続を経ないで代執行をすることを認めているだけで、当該行政庁に除却命令権等が存在しない場合にまで公権力の行使たる代執行を認めているものではない。ところで、控訴人は、代執行の要件である本件鉄レール杭の撤去命令権を有しなかったのであるから、もし正当防衛、緊急避難についての控訴人の主張が容易に認められるならば、緊急状態を想定して設けられた緊急代執行に関する右規定は不要になってしまうのである。したがって、緊急代執行に関する法律の規定の存在からしても、控訴人の右主張は、それ自体失当である。

6  控訴人の主張7の事実は知らない。

第三  証拠(省略)

理由

一  被控訴人が浦安町の住民であること及び控訴人が昭和四四年九月八日千葉県東葛飾郡浦安町の町長に就任し、昭和五六年四月一日、同町が市制を施行したことにより浦安市の市長に就任したことは、当事者間に争いがない。

二  次に、境川が河川法の適用を受ける一級河川であり、建設大臣の指定区間として、その管理権を千葉県知事が有し、現実の執行は、出先機関である葛南土木を通じて行っていること、浦安漁港が浦安町に所在し、昭和二七年六月二三日農林省告示第二七一号により漁港法の適用を受ける第二種漁港に指定され、その区域内の水域として、「大字猫実地先船溜防波堤南端を中心として半径六百五十メートルの円内の海面及び境川取入口中心部を中心として半径百五十メートルの円内の江戸川河川水面のうち千葉県地先分並びに境川河川水面」が指定されていること、漁港法二五条、昭和三一年一月二〇日千葉県告示第二〇号により、浦安漁港につき、その所在地の地方公共団体である浦安町が漁港管理者に指定され、以来、浦安町が浦安漁港の維持管理をする責めに任じてきたが、控訴人は、同町の町長として、右管理権を行使する地位にあったこと(ただし、浦安町は、同法二六条にいう漁港管理規程を定めていない。)は、いずれも当事者間に争いがなく、当事者間に争いのない請求原因3及び4の事実、成立に争いのない甲第五、第六号証、乙第六、第一九、第二〇号証、原本の存在とその成立に争いのない甲第三号証の一ないし四、乙第四、第五、第七、第一〇、第一三、第一四号証、原審証人池内慧の証言により成立が認められる甲第四号証の一ないし四、本件鉄レール杭の打設状況を撮影した写真であることにつき争いのない乙第一号証の一、二、原審証人池内慧(一部)、原審及び当審証人秋元繁の各証言によれば、本件鉄レール杭撤去の経緯として次の事実を認めることができ、原審証人池内慧の証言中この認定に反する部分は措信できないし、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

1  境川は、上流において旧江戸川から分岐し、順次、約二キロメートルの市街地部分、約一・五キロメートルの第一期埋立地部分及び約一・四キロメートルの第二期埋立地部分を経て、海に注ぐ河川であるが、昭和四九年ころから、浦安釣船協同組合が設置した桟橋などに、河川法上の許可を受けないで、ヨット、モーターボートが不法係留されるようになり、千葉県河川課、葛南土木及び浦安町の行政指導により、その状態は一時改善されたものの、昭和五二年ころから再びヨット、モーターボートの不法係留や木杭などによる係留施認の不法設置が増加し、そのため、境川を航行する約一六〇隻の漁船等の水路が狭められ、高速度で走行するモーターボートが起こす高波のために航行する船舶に危険が生じたり、船舶の接触・破損事故が発生して、漁民等からの苦情が多くなり、昭和五五年五月には、浦安町に境川ボート調査委員会が設置されて、その対策を検討することになったが、同委員会が調査した際、境川の第一期埋立地部分に約一三五隻のモーターボート、第二期埋立地部分に約五〇隻のヨットが不法係留されていた。

2  浦安町は、昭和五五年六月四日午前一〇時過ぎころ、地元の漁師から、境川の第一期埋立地前面から第二期埋立地前面に至る間に、鉄骨のような物件が打ち込まれていて、非常に危険なので早急に対処してほしいとの通報を受け、直ちに秋元繁管理課長ら三名の職員を現場に派遣して調査したところ、浦安町第二期埋立地高洲地先の川幅四三メートルの境川の河心(右岸から二一・五メートルの地点)及び右岸側(右岸から約一・五メートルの地点)に、長さ一二メートル及び一〇メートルの鉄道レールが、約一五メートルの間隔で、深さ数メートル、二列の千鳥掛に約一〇〇本、全長約七五〇メートルの範囲にわたって打ち込まれていて、船舶の航行可能な水路の範囲が、十分浚渫されていないために水深の浅い左岸側だけとなっており、その現場には照明設備がなく、特に夜間及び干潮時に航行する船舶にとって非常に危険な状況であることが判明した。

そこで、浦安町は、同日午後、同町の埋立工事を所管する千葉県企業庁の出先機関である葛南建設事務所に問い合わせるなどして本件鉄レール杭の打設者を捜す一方、葛南土木に対し、本件鉄レール杭を早急に撤去する措置を講ずるよう要請した。

3  葛南土木は、同月三日、葛南建設事務所からの連絡により、既に本件鉄レール杭打設の現場を確認し、その撤去の要請を受けていたが、浦安町からも本件鉄レール杭撤去の要請を受け、同月四日、その打設者であるサンライズクラブの池内に対し、本件鉄レール杭を至急撤去するよう要請し、池内から、翌五日中に撤去する旨の回答を得た。

ところで、サンライズクラブは、河川法二六条、二四条の許可を受けないで、同年五月二〇日ころ、本件鉄レール杭の打設工事を栗原海運株式会社に発注し、その注文を受けた同社が同月三一日から六月二日ころにかけて本件鉄レール杭を現場に打設した(本件鉄レール杭の打設工事費等は約一四〇万円、港商運輸株式会社から購入した本件鉄レール杭の売買代金は約二七〇万円である。)のであるが、右発注の理由は、浦安釣船協同組合が設置した前記桟橋の下流に六月九日水管橋が架けられることになったため、右桟橋などに係留しているヨット約七〇隻がマストを立てて水管橋の下を通過できなくなるところから、その架設の前にヨットを新設される水管橋の下流に移動させて、これを係留する施設を設置する必要が生じたからであり、サンライズクラブでは、多数の会員に通知して、右桟橋などに係留しているヨットを六月七日及び八日に一斉に移動させて本件鉄レール杭に係留することになっており、浦安町は、同月五日、葛南建設事務所から、右ヨット移動の計画を聞知した。

4  浦安町は、同月五日午前、秋元課長らを現場に派遣して、サンライズクラブの池内が葛南土木に回答したとおり本件鉄レール杭を撤去する作業を始めたかどうかを調査したが、右撤去作業が実施される様子は全く認められなかった。また、葛南土木も、現場を視察した上、同日午前一〇時三〇分ころ、佐竹所長らが浦安町役場を訪れ、控訴人とその善後策につき協議した。

控訴人は、葛南土木に対し、船舶航行の安全及び住民に対する危険防止の見地から、本件鉄レール杭打設の状態をこのまま放置することは到底できないので、本件鉄レール杭を強制的に撤去する措置を講ずるよう強く要請したが、葛南土木が同月八日以前にこれを撤去するには時間がないということであったので、千葉県当局がこれを撤去する措置をとらないのであれば、浦安町の権限で独自に撤去する旨を告げた。

浦安町は、同月五日、葛南土木の佐竹所長らが帰った後、直ちに境川ボート調査委員会を招集し、午後五時ころ、本件鉄レール杭を強制的に撤去する措置を講ずることを決定し、三井不動産建設との間で、本件鉄レール杭撤去工事の請負契約(請負代金一三〇万円)を締結した。

なお、葛南土木は、同日午後四時ころ、池内に対し、本件鉄レール杭を同月六日中に撤去するよう指示する旨を記載した「不法設置工作物の撤去について」と題する文書を交付し、浦安町からも苦情が出ている旨を口頭で告知した。

5  同月六日午前八時二〇分ころ、浦安町職員らが現場に到着したが、池内には本件鉄レール杭の撤去作業を開始する気配がなく、「サンライズ田島号」外三隻のモーターボートが本件鉄レール杭に係留されていたが、右職員らの説得によって退去したので、同日午前九時から翌七日午前零時四〇分までの間、監督指導した浦安町の金川助役以下一七名の職員及び三井不動産建設の従業員によって本件鉄レール杭が撤去された。そのため、サンライズクラブの会員は、同月七日早朝、予定どおりヨットを現場に移動させるために集合したが、その移動を中止した。

浦安町は、同年七月二一日、控訴人の命により右撤去作業に従事した浦安町職員六名に対し、合計四万八二七四円の時間外勤務手当を支給し、同年一二月二六日、三井不動産建設に対し、工事請負代金一三〇万円を支払った。

三  そこで、浦安町がした本件鉄レール杭の撤去が適法な行為といえるか否かについて検討する。

1  控訴人の主張4について

控訴人は、浦安町は、浦安漁港の漁港管理者及び地方自治法二条の行政主体として、境川の水域に打ち込まれた本件鉄レール杭の撤去を命ずる権限を有すると主張するところ、前項の冒頭に記載した昭和二七年六月二三日農林省告示第二七一号の浦安漁港の区域内の水域を定めた文言、成立に争いのない甲第二号証の一、二、原審証人秋元繁の証言によれば、右農林省告示にいう境川河川水面は、境川の全域を指し、かつ、右告示の後に浦安町地先の海岸が埋め立てられて境川の水域が延長したけれども、これまで埋立てに伴って延長した部分も浦安漁港の区域内の水域に当然含まれるものと解釈運用されてきており、これにつき関係当事者間に何らの異論もないことが認められる。そうすると、本件鉄レール杭が打ち込まれた境川水域は、浦安漁港の区域内の水域に属し、浦安町による漁港管理権限の及び区域内であると認めるのが相当である。

ところで、浦安町が漁港法二六条にいう漁港管理規程を定めていないことは、当事者間に争いがないが、漁港法令の規定を見ると、漁港管理者は、漁港管理規程を定め、同規程において、「漁港の区域内の水域の利用を著しく阻害する行為の規制に関する事項」を必ず定めるべきことが要求され、これに従って、適正に、漁港の維持、保全及び運営その他漁港の維持管理をすることになっており(漁港法二六条、三四条一項、同法施行令二〇条三号)、かつ、右漁港管理規程については、これを公示するとともに、農林水産大臣に届け出なければならないもの(同法三四条二項)として、その内容の周知と適正の担保を期している。これによれば、漁港管理者の職責を定めた漁港法二六条の規定があることを考慮しても、これだけ慎重な手続を経るべき漁港管理規程という根拠に基づくことなく、これと同じ内容の漁港管理権限を漁港管理権者が当然に行使し得るものと解することはできない。しかも、前認定の事実によれば、本件において撤去の対象とされたヨット係船用鉄レール杭約一〇〇本(本件鉄レール杭)は、境川河川水面下の土地に深く打ち込まれたもので、約一〇〇本の鉄道レールが全体としてヨット係留施設を構成しており、その撤去のためにかなりの労力、時間及び費用を要したこと及びヨットを係留するという機能からも明らかなように、境川河川水面下の土地に対する定着性を有するものと認められるから、漁港法三九条一項にいう工作物に当たるというべきところ、漁港区域内の水域に不法に設置された工作物については、農林水産大臣の委任(機関委任)を受けた都道府県知事がその除却命令権限を有するものとされ(同法三九条六項、四四条、同法施行令二一条一四号)、国が行う事務となっているのであるから、漁港管理者の漁港管理権限は、都道府県知事の権限に属するものとされた右除却命令権限には及ばないといわざるを得ない。さらに、浦安町は、境川及び周辺地域住民と最も密接な関係にある地方公共団体であり、地方自治法二条に規定されているとおり、当該地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持する行政事務処理の職責と機能を有しており、このことは、当事者間に争いがなく、また当然のことでもあるが、境川河川水面自体は、河川法及び漁港法の適用を受け、その管理機構も国の法律で定められているのであるから、地方公共団体としての一般的な権能をもって、その地域内の河川ないし漁港内における浦安町の管理権限(特に除却命令権限等)を根拠付けることはできない。

そうすると、浦安町ないし同町の町長は、行政代執行の対象となるべき本件鉄レール杭の撤去を命ずる権限を有しないといわざるを得ないから、その余の控訴人の主張につき判断するまでもなく、浦安町がした本件鉄レール杭の撤去を行政代執行法に基づく代執行と見て、その適法性を肯定する余地はない。

2  控訴人の主張5について

前認定の事実によれば、本件鉄レール杭の打設工事費等は約一四〇万円、その売買代金は約二七〇万円であり、浦安町は、本件鉄レール杭撤去工事の工事請負代金として一三〇万円を三井不動産建設に支払い、その撤去のためにかなりの労力及び時間を要しているのであって、本件鉄レール杭は、約一〇〇本の鉄道レールが全体としてヨット係留施設を構成しており、その状態に一定の経済的価値を有し、池内ないしサンライズクラブの所有に属するものと認められる。そうすると、本件鉄レール杭の撤去をもって、例えば港湾内に滞留した流木など浮遊物の移動のように、その規制対象物件の経済的価値を何ら損なわない行為と見ることは到底できないから、法治主義の一般原則に従い、本件鉄レール杭を撤去するためには、その管理権の行使に関する法律又はこれに基づく条例、規則等の定めがなければならず、その存在が危険又は障害となるとしても、公共用物の管理者あるいは漁港管理者であるということから、当然に本件鉄レール杭を撤去する権限を有するものということはできない。

3  控訴人の主張6について

前認定の事実によれば、本件鉄レール杭は、サンライズクラブが栗原海運株式会社に発注して無許可で打設したものであり、その打設により、境川を航行する船舶の水路を著しく狭めて、船舶の接触・破損事故などを起こすおそれがある高度に危険な状態をもたらし、しかも、サンライズクラブには、葛南土木からの本件鉄レール杭撤去の要請に応じて、その撤去作業を開始する用意もなかったのであって、もしサンライズクラブが予定どおり多数のヨットを一斉に移動させて本件鉄レール杭に係留することになれば、更に一層危険な状態を招いて混乱することが当時の情勢から十分予想されたのであるから、控訴人が、浦安町の町長として、船舶航行の安全及び住民に対する危険防止の見地から、本件鉄レール杭打設の状態をこのまま放置することは到底できないとして、これを強制的に撤去する措置を講ずるよう葛南土木に強く要請する一方、事が緊急を要するところから、浦安町独自の立場で、本件鉄レール杭の強制撤去に踏み切ったことは、その動機・目的等の主観的側面に着目する限り、何ら非難すべきところはなく、むしろ積極的に評価すべきものとさえいうことができる。

しかしながら、他方、本件鉄レール杭は、池内ないしサンライズクラブの所有に属する財産であり、これを強制的に撤去することは、私人の財産に対する直接かつ重大な侵害となるものであるから、法治主義の一般原則に従い、これを撤去するためには、前述したとおり、その管理権の行使に関する法律又はこれに基づく条例、規則等の定めがあって、これに基づき、その撤去行為を適正に実施しなければならないのであり、公共用物の管理者あるいは漁港管理者であっても、当然に本件鉄レール杭を撤去する権限を有するものとはいえず、そもそも浦安町には、その撤去を命ずる権限がなかったのであるから、それでもなお、緊急避難等に関する民法七二〇条の規定を適用し得る場合があるとしても、それは極めて例外的な場合に限られるというべきであり、河川管理者として本件鉄レール杭を撤去する権限を有する千葉県知事(葛南土木)がサンライズクラブの池内に対してこれを撤去するよう要請していたこと、本件鉄レール杭の撤去作業を開始する前、浦安町が直接池内に対して自発的にこれを撤去するよう勧告・説得したことはなかったこと、船舶の接触・破損事故などの発生を防止するためには、本件鉄レール杭が撤去されるまでの間、浦安町が同町の住民、境川を利用する漁業関係者等に対して取りあえず広報活動によって注意を促し、あるいは航行する船舶を安全な水路に誘導するなどの事故防止措置を講ずることも考えられること、その他ヨット、モーターボートの不法係留や木杭などによる係留施設の不法設置に対して従来有効適切な対策が講じられていなかったことなど、諸般の事情を考慮すると、本件鉄レール杭を強制的に撤去すること以外に、浦安町に適切な事故防止方法が全くなかったとまではいえず、前認定の事実から緊急避難等の成立を認めることはできないといわざるを得ない。

4  控訴人の主張7について

当審証人荒井弘の証言とこれにより成立が認められる乙第二二号証、当審証人秋元繁の証言とこれにより成立が認められる乙第二三号証によれば、千葉県は、昭和五八年一二月一日、浦安市との間で、水門等管理委託追加契約を締結し、昭和五九年五月二六日、同市に対し、右追加契約に基づく委託費として一三七万九〇〇〇円を支払ったことが認められる。ところで、秋元証人は、当審において、右金員は、千葉県が実質的に本件鉄レール杭の撤去作業に要した費用を補填したものである旨の供述をしている。しかし、乙第二二号証の水門等管理委託追加契約書には、その本文及び末尾の水門等追加委託業務内訳において、右金員が、右追加契約を締結した日である昭和五八年一二月一日から昭和五九年三月三一日までの間における水門等の付近のパトロール業務の委託費であることが明記されており、それが本件鉄レール杭の撤去作業に要した費用を補填する趣旨の金員であることをうかがわせるような記載は全くないのであって、秋元証人の右供述は、右追加契約書の記載及び当審証人荒井弘の証言に照らし、たやすく採用することができず、他に控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。

四  既に検討したところから明らかなように、浦安町がした本件鉄レール杭の撤去は違法であるといわざるを得ないから、控訴人が同町の町長としてした本件公金の支出の適否について判断する。

1  まず、控訴人が浦安町の町長として昭和五五年六月五日三井不動産建設との間で締結した本件鉄レール杭撤去工事の請負契約(請負代金一三〇万円)は、本件鉄レール杭の撤去という違法行為をすることを直接の目的とするものであるから、このような契約の締結は、地方自治法二四二条一項所定の違法な財務会計上の行為に当たり、浦安町は、右契約に基づき、同年一二月二六日、三井不動産建設に対して工事請負代金一三〇万円を支払うことを余儀なくされ、これにより同額の損害を被ったものというべきである。したがって、控訴人は、浦安町に対し、不法行為による損害賠償として、右一三〇万円及びこれに対する損害発生の日である同年一二月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

2  次に、時間外勤務手当について、控訴人が浦安町の町長として同町職員六名に対して命じた本件時間外勤務命令は、本件鉄レール杭の撤去という違法行為に従事することを直接の目的とするものであるから、これが違法であることは言うまでもない。しかし、たとい違法な職務命令であっても、その違法性が重大かつ明白なものでない限り、当該職務命令を受けた職員は、これに従うべき行政組織法上の義務を負うものというべきであり、前認定の事実によれば、本件時間外勤務命令に重大かつ明白な違法があるとまで認めることはできないから、右命令は、これを受けた浦安町職員六名に対して時間外勤務を義務付けるものといわなければならない。そうすると、右職員らが本件時間外勤務命令に従って時間外勤務をしている以上、浦安町の町長である控訴人は、本件時間外勤務手当の支出決定ないし支出命令をするに当たり、これに先行する違法な本件時間外勤務命令を取り消すことは、もはや不可能である。また、本件の場合には、時間外勤務命令が発令されても、これに従った時間外勤務がされない限り、時間外勤務手当の支給義務が発生しないという意味において、時間外勤務手当の支出という財務会計上の行為の直接の原因行為は、時間外勤務がされた事実であって、これに先行する時間外勤務命令ではないということができる。したがって、控訴人は、本件時間外勤務命令に従って時間外勤務をした浦安町職員六名に対する時間外勤務手当の支給義務を免れることはできず、右職員らに対する時間外勤務手当の支出を決定し、その支出を命ずべきであって、控訴人の財務会計上の右行為を違法とすることはできないというべきであるから(なお、最高裁判所昭和五五年(行ツ)第八四号昭和六〇年九月一二日第一小法廷判決・裁判集民事一四五号三五七頁は、「地方自治法二四二条の二の住民訴訟の対象である財務会計上の行為が違法となるのは、単にそれ自体が直接法令に違反する場合だけではなく、その原因となる行為が法令に違反し許されない場合の財務会計上の行為もまた、違法となるのである。」旨判示しているが、本件とは事案を異にするものであって、当裁判所の右見解は、右最高裁判決の判示に抵触するものではないと解する。)、その違法を前提として、控訴人に対し、時間外勤務手当相当額合計四万八二七四円とその遅延損害金を浦安市に支払うことを求める被控訴人の請求は理由がない。

五  よって、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、浦安市に代位して、控訴人に対し、損害の賠償を求める被控訴人の本訴請求は、請負代金相当額一三〇万円及びこれに対する昭和五五年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を同市に支払うことを求める限度において認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

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